時は文政――。
数年前客の放火で全焼した舛花屋は再建し、再び賑わいを取り戻していた。
困窮した公家の家に生まれた女は、その舛花屋の再建後に売られてきた。
今はそこそこの売れっ妓になっている女は、生き別れになった愛する兄を探し求めていた。
兄の名は葛野小路或承。
その兄が 『蝋梅の承』 という通名で、
江戸の街の 『闇の仕置人』 稼業をしていることなど、女は知る由もなく。
ある日、張り見世で客待ちをしていた女は、その兄が目の前を通りがかったことに気付き、
吸い差しの煙草を思わず投げてしまう。
兄を客とし、結ばれた日からひと月経ったある日に女に文が届く。
きつい咎が待っていると判っていても、たまらずに女は廓を抜け出し、
文に書かれていた寺の境内に夜の闇にまぎれてやって来た。
仕置人である承は、罠に嵌められお尋ね者となってしまった。
逃げきれないとわかり、最後に愛した女の顔が見たくて、文を出してしまったという。
最後の接吻を交わし、承は死出の旅を決意するのだが…。